アーティスト、ママブルースとのスモールトーク

ニュー・ニュー・タイランド僕たちが好きなタイランド Vol. 4

バンコクの友人が「面白いアーティストがいるよ」と紹介してくれたのがママブルース ( Mamablues )。作品や写真を見て、会ってみたい!とすぐに思った。

それが今から5年ほど前。彼女の自宅兼アトリエを訪ねた。おっとりとした雰囲気の中にしっかりとした芯が見える人だった。作品も彼女自身にも世界観がしっかりあると感じた。

そしてパンデミック以来、久しぶりに彼女の自宅を訪れた。バンコク市内からタクシーで40分ほどの閑静な住宅街にある一軒家。ガレージには歴代の中で一番四角くてかっこいいと(クルマ好きの僕が)思っているカローラワゴン。マニュアルの愛車を彼女はさらりと乗りこなしていたのを覚えている。

出迎えてくれた彼女の穏やかさは、初めて会ったときと変わっていなくてほっとした。

―――久しぶりだね。カローラワゴンに作品がたくさん載せられているけれど、相変わらず作品を描いているんだね。

久しぶり!5月にバンコクにある「Joyman Gallery」というギャラリーで展示が決まったの。今はそのために描いているところ。

―――楽しみじゃん!そういえばさ、ずっと気になっていたんだけれど、本当の名前はFaiでしょ?( Fawalai Sirisomphol ) どうしてママブルース( Mamablues ) で活動しているの?

日本の90年代の漫画、『ろくでなしブルース』からヒントを得てつけた名前なの。漫画の登場人物の髪型が当時の私に似ていたから。本当はいつか変えようと思っていたんだけれど、「ママブルース」が定着しちゃって変えるタイミングを逃しちゃった。

絵を描き始めた当時は5人のアーティストグループで活動していたの。当時はグループ展をよくやっていたんだ。街中でグラフィティや建物の外壁に絵を描いていたんだよね。

当時の私はエネルギーが有り余っていて。それを放出するにはキャンバスでは足りなくて、バンコクの街中にある大きな壁が必要だった。とにかく絵を描くことが楽しくて、楽しむために描いていたの。

バンコクの隅々から、タイ国内のいろいろな場所、韓国や中国へも描きに行ったわ。時間があればクルマで街を廻って壁を探していた。クルマから見える壁に描けば多くの人に見てもらえると思って。もう10年以上前の話だけどね。これまで100以上の壁に描いてきたの。

―――最近はキャンバスにも描いているの?

そうなの、本格的にキャンバスに描くようになったのはパンデミックが始まってから。当時は外に出ることも難しかったから、アーティストの友だちがNFTアートを勧めてくれたの。Non-Fungible Token ( 非代替性トークン)のデジタルアートね。NFTで販売する作品は基本的にコンピューターやタブレットで制作するんだけれど、私は同時に同じ作品をキャンバスでも描いているの。

デジタルで作る作品は筆で描くよりもさらに細かいディテールを描くことができるからそれはとても好き。同じものをまた筆で表現するのも好き。タブレットに描くより筆で描く方が気持ちの入り方が違うって思っている。

次に展示をする「Joyman Gallery」は私のNFTの作品を見て連絡をしてきてくれたの。ストリートの作品とはまた違うアプローチだったのが私にとって興味深かった。

―――作品には女性が描かれていることが多いね、あの人は?

例外もあるけれど、ほとんどの場合私自身。フェミニンということも私が描く作品のテーマでもあるから。私が表現したいことのひとつ。

これまでは構図、配色、そして描くこと自体を楽しむ。そのことだけを考えて作品を描いてきていて、作品を通して自分を表現することはあまり考えずにやってきた。でも今回個展が決まって私自身が絵を描く理由、そして生み出された作品がどういうものなのか。改めて考えているところ。

ギャラリーの人と話していくうちに、描いた作品を通して自分が何を表現したかったのかを理解しておく必要があるって気がついたの。
パンデミックがあって作品を発表することが久しぶりなので、自分の頭をクリアにしてゼロからスタートさせている感じ。これからも作品を描いていく中でも表現について考えることは必要になるって思う。
それがしっかりと見えるようになったら私はアーティストとしてまた次のレベルに上がれると確信しているの。

―――そう確信できるのって素晴らしいね。これからが楽しみだね。
ところで以前は女優業と作品制作を両方やっていたよね?

今は作品制作だけ。女優業への情熱がなくなってしまったから。ストリートで作品を描いているときにスカウトされて10年以上続けたけれどね。絵を描くことと演じることも同時にやってきたけれど、今は絵に集中したいと思っている。前回夢を聞かれた時は、お金を気にせずに暮らせるくらい稼ぎたいって答えたけれど、いまは有名なアーティストになりたいって思っている。ちょっと夢が変わったの。

自分が描いた作品についてうまく説明できなかったのと同時に、それをアート作品だって言える自信がなかった。でも今はアートだって堂々と見せることができるようになったんだ。5年前に話したときとはだいぶ変わった気がする。

作品を描くとき、自分自身で作品を導かなければならなかったけれど、今では作品が私を導いてくれるようになった。それはとても素晴らしいことだと思う。


おっとりとした雰囲気の中に力強い芯がある。久しぶりに会った彼女は初めて出会ったときと同じ印象だった。四角いカローラワゴンも相変わらずかっこよかった。だけれど会えなかった月日の分、アーティストとして確実に成長しているし、作品もさらに魅力が増していた。また彼女の数年後がとても楽しみになった。次はどんな夢を描いているのだろうか?

Mamabluesの作品は街中でも見ることができる。サイアムにあるBACC ( Bangkok Art and Culture Centre )内 1Fにあるカフェ「Gallery Coffee Drip」IG @gallerydripcoffee店内の壁。BACCを結ぶサイアムスカイウォークのオブジェに作品が描かれている。ぜひ迫力ある実物の作品を見て欲しい。

文・竹村卓
写真・呉屋慎吾

●プロフィール
Mamablues ( Fawalai Sirisomphol )  
バンコク出身、グラフィティ、ミューラルペインター。ナイーヴだったり作品に収まりきらないほどエネルギッシュだったり作品によって作風はさまざま。見る者を飽きさせない。5月にはバンコクにある「Joyman Gallery」にて個展を開催予定。
Instagram: http://instagram.com/mamablues/

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