チェンマイにスケートパークを。夢を作り続けるTotoと再会。

ニュー・ニュー・タイランド 僕たちが好きなタイランド Vol. 11

今回話を聞かせてもらったのはスケートボードをこよなく愛するトト(Toto)。
初めて彼と出会ったのは「New New Thailand 僕の好きなタイランド(2019年刊)」の書籍作りでチェンマイを訪れていたとき。街の至る所に” Wakeback Skate Cafe OPEN “と書かれたカラフルなコピー用紙が貼られていた。それが気になって、そこに書かれていた地図を頼りに訪ねてみた。そのカフェをやっていたのがトトだった。まるまると太った猫と、誰がどう見てもスケートボードが好きな人がやっている店の内装。壁にはスケートボードの雑誌から切り抜かれた写真、スケートボード、それに関わる本、そしてTシャツなども売っている。

笑顔で迎え入れてくれたトトと話をしてみると、カフェをやりながら”View Magazine”というスケートボードのフリーペーパーを作っている、とその雑誌を見せてくれた。自分が生まれ育ったチェンマイの街をスケートボードで滑りながら写真を撮影。スケーターの視点で見たチェンマイの街というコンセプトも面白い。写真、原稿、デザイン、営業、すべてを一人でこなしているDIY ( DO IT YOURSELF )の精神がこれまたスケーターらしくていいなと思った。クオリティの高さはもちろん、なによりも作り手のスケートボード愛がたっぷりと感じられるフリーペーパーだった。その日以来、チェンマイ滞在中は何度も彼のカフェを訪れ、街の情報をいろいろと教えてもらっていた。

「チェンマイはタイで2番目に大きな街なんだけれど、この街にはスケートパークがないんだ」確かにこの街でスケートパークを見たことがない。「パブリックのスケートパークが作れないか、街の議員に話をしたり、スポンサーを探していろいろと動いているところなんだ」パソコンを開いて彼が描いたというスケートパークの構想図まで見せてくれた。楽しそうに画面を見つめながら話してくれたトトの笑顔がとても印象的だった。


(2018年に撮影)

それから新型コロナウィルスが世界中に猛威を振るうこととなる。今回4年ぶりのチェンマイ。トトにも会うことができた。今はどんなことをやっているんだろうか?

「久しぶりだね、僕はあれから2つのスケートパークを作ることができたんだよ。バンコクのスケートカンパニーがスポンサーしてくれて、大きな倉庫の中にパークを作ったんだ。無料で誰でも滑ることができる。僕とローカルのスケーターたちが中心となって制作したんだ。仲間のスケーターにコンクリートや木工を扱える大工がいたからね。でもパンデミックの真っ只中にオープンしたこともあって、7ヶ月でクローズしなければならなくなってしまったんだ。計画していたオープニングパーティーもすることができなかったし、僕たちに投資をしてくれた人に何も返すことができずに閉鎖に追い込まれてしまったのはとても悔しかった」

「そしてもう一つのパークがここ。元々ガソリンスタンドだった場所で、前のスケートパークをクローズしなければならなくなったとき、解体したランプやセクションを置く場所が必要になったんだ。場所を貸してくれたり、サポートしてくれそうな企業に電話したりメールを送りまくったんだ。それでもなかなか協力してくれる人は見つからなかった。その間に僕たちが企画したパーティーである女性と出会ったんだ。彼女はタイの有名な歌手で、そのパーティーの雰囲気も気に入ってくれたし、僕たちがやってきたことにとても興味を持ってくれたんだ。そしてその資材を置く場所を探していることを話した。そしたら彼女の父親が資材を置ける場所を持っているって、そのお父さんを紹介してくれたんだ。

彼はクローズする予定だったスケートパークをわざわざ見に来てくれ、僕たちがやっていることをとても気に入ってくれたんだ。彼が所有している元ガソリンスタンドだった土地を無償で貸してくれると言ってくれたんだ。しかも資材置き場としてではなく、スケートパークとして使ってもいいと。初めはまったく知らない人だったけれど、何度もあってお互いに話をしていくうちに、とてもいい信頼関係を築くことができたんだ。彼は20年くらい前に”Space Roller”というローラースケート場の娯楽施設を市内にオープンさせていたんだ。当時の若い人たちやアーティストが集まる楽しい施設だったみたい。またそういう施設をやりたいって思っていたらしいんだ。これまでにさまざまなビジネスで成功してきた人で、いまはビジネスから退きゆっくりと好きなことをして暮らしていて、これまで生活をしてきたチェンマイやこの街で新しいことに挑戦する若者に還元したいって話してくれたよ。チェンマイと街のスケートコミュニティのためにと。

パークの施設は僕たちのお金で作る予定だったんだけれど、オーナーがその費用も負担してくれることになったんだ。少ない予算とDIYでやっていたら時間がかかりすぎるって。一刻も早くパークが見たかったみたい。笑。その代わりチェンマイのスケーターたちが存分に楽しめる施設にして欲しいって言ってくれたんだ。それまでその場所には ” FOR SALE ” の看板が建っていたけれどそれも取り外してくれて。そしてこのパークがオープンすることになったんだ。来月にはオープン予定だよ(インタビュー当時2022年11月)

トトの熱意がたくさんの人に伝わって、やりたいことができるのはとてもいいことだし、街に還元がしたいと協力してくれる先輩方がいるなんて心が温かい街だね。前にやっていたカフェはどうしたの?

「あの後、パンデミックが広がってしまし、カフェは閉店しなければいけなくなったんだ。閉店してからの1年間はいろいろと考える時間だったよ。それから「YOUTH CLUB」というコメディーショーが見られるバーを始めたんだ。もともとコメディが好きだったし、気軽にお酒を飲みながらコメディが見られたら楽しいだろうなって思ってね。夜は自分のバーを開いて、昼間はスケートパークを作っていたよ。しばらくしてその「YOUTH CLUB」も閉店することにしたんだ。なんだかいろいろと疲れちゃった時だったんだよね。それとずっと前からやっていたスケートのランプやセクションを作るビジネスもやっているんだ。パークを作りたいとかイベントでランプが欲しいというお客さんのために出張してそういった物を作っているんだ。


「なんだかいろいろなことにトライしているね。でもやっぱりずっとスケートボードが好きなんだね。いま、こうしてスケートパークを作ることができて、これからの夢は何かある?」

「たくさんの人たちに協力してもらってスケートパークが作れたのは本当に幸せだって思っているよ。土地を貸してくれているオーナーにこのパークでたくさんの子どもたちが楽しく遊んでいる姿を早く見てもらいたい。僕の本当の夢は、田舎に土地を買ってスケートキャンプを開きたいって思っているんだ。山の中にキャンプ場やゲストハウスがあって一日中スケートボードが楽しめる施設。僕もだんだんと年齢を重ねているし、田舎に暮らしたいって話している両親と一緒にゆっくり暮らせる場所が欲しい。このパークも自分自身にとてもいい経験になっているからこれをいかして次へつながるようにしたいんだ。自分の力を100%出し切れるチャンスってそれほどたくさんないような気がするから。

「なるほどね、じゃあ次に会うときはチェンマイの街中ではなくて、どこか山奥かもしれないね。どこで会えるのか楽しみにしているよ」

どこの場所を訪れても、好きなことを追いかけ続けている人が必ずいる。トトは偶然にも僕と共通してスケートボードが好きだというので仲良くなることができた。こういう出会いがきっかけとなり、チェンマイに素晴らしい人たちがいることをさらに知ることができたし、この街がもっとに好きになることができた。

このインタビューをしたのが2022年11月。この原稿を書くためにトトに連絡してみると、このガソリンスタンドのスケートパークは近くクローズすることになったのだそう。そして今はそれに変わる新しい場所を友人と探していると写真と共に連絡が来た。次はどんなストーリーを聞かせてくれるのかまたそれも楽しみでならない。


ⓒToto


ⓒToto

文 / 写真:竹村卓

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