彼女たち三人の想いが詰まった SAUCE COFFEE

ニュー・ニュー・タイランド 僕たちが好きなタイランド Vol. 9

タイを訪れたのならぜひカフェでタイ産のコーヒーを飲んでもらいたい。コーヒーをお勧めする大きな理由の一つにタイ国内でコーヒー豆を栽培、収穫できること。どの街を訪れても居心地の良い空間でバリスタがおいしく淹れたコーヒーを飲ませてくれるこだわりのあるカフェがある。彼らはさらにおいしいコーヒーを提供するために、高品質のコーヒー豆を求め始めた。そのためにカフェのオーナーやバリスタたちは焙煎にこだわり、さらに品質の高いコーヒー豆を求めてコーヒー農園へと足を運ぶようになった。そして農家の人たちは彼らと協力し合いさらに上質なコーヒー豆を栽培、収穫している。これは国内でコーヒー豆が採れるタイならではの特徴だ。近年続いているカフェブームがタイ国内産コーヒーのクオリティを年々とあげ、世界中から注目を集めるようになっている。

バンコクの有名カフェの運営に携わり、ロースターとして一目を置かれてきたピッコロさんが、ラタさん、ナンパーンさんと共に新しいコーヒーブランド「 SAUCE COFFEE 」を立ち上げた。コーヒーのテイストはもちろんパッケージデザインも独特で素晴らしい。タイで続くカフェ/コーヒーブームの中、女子三人が改めて立ち上げたコーヒーブランドに注目しないわけがない。彼女たちにブランドのこと、さらにタイのコーヒーについて話を聞いてみた。

ピッコロ:私たち三人は以前働いていたカフェの同僚。私がロースター、ラタがデザイナー、ナンパーンが営業/マーケティングを担当。三人ともコーヒーに対して同じくらい熱いパッションを持っていて、コーヒーを通して伝えたいことがあるから、ブランドを始めない理由がなかったの。タイ産の素晴らしいコーヒーをみんなに味わってもらいたいし、それと同時に世界中から集まるさまざまな種類のコーヒーをタイの人たちにも知ってもらいたいって思っている。

ータイ産のコーヒーと輸入した豆も扱っているんだね。まず「SAUCE COFFEE」という名前の意味は?

ピッコロ:そうなの、タイ産の豆を中心に海外の豆を扱っているわ。“ SAUCE ”という名前には二つの意味があって、ひとつはオリジン。ここでのオリジンとは、土、コーヒーを実らせる木々、農園と農家の人たち、加工プロセス。ふたつ目はシーズニング。コーヒーはその時々によって味が変化するし、普段の生活のリズムの中でコーヒーを飲むということがシーズニングのような役割を果たしてくれるから。私たちはコーヒーのテイストだけではなく、それがどのような場所で誰がどうやって育ったのか?ということも含めて考えていきたいって思っている。コーヒーを通して人々がつながったり、食べ物と人との間にコーヒーが存在したり。それらいろいろな意味を込めて「SAUCE COFFEE」という名前にしたの。

ーーー「SAUCE COFFEE」のフィロソフィーはこのユニークなパッケージにもよく表れているね。

ラタ:私たちのコーヒー豆のブランドはサスティナビリティを強く意識していて、それはパッケージにも表現されているわ。リサイクルペーバーを使った箱は、構造と折り方を工夫して接着剤を使わずに組み立てられている。箱からコーヒーの袋を取り出した後は、その箱を折り直すことで開封した袋を立てておくトレーとして使うことができるの。もちろんペン立てとか他の用途にしてもいい。処分するときには開いて小さくたたんで捨てられる。これは日本人がやっている方法を参考にしたの。タイの人の多くは箱を潰さずにそのまま捨てるから。そして袋にブランドのラベルを貼らないことでさらにゴミが出る量を減らしている。ちょっとしたことだけど環境に優しくなるから。その代わり紙のカードを使っていて、表側はブランドのレーベルになっていて、箱から取り出すと裏にはコーヒーのストーリーやインフォメーションが書かれたカードになっているの。

ーーーとてもこだわった作りになっているね。「SAUCE COFFEE」は何種類の豆を扱っているの?

ピッコロ:タイコーヒーの収穫シーズンは11月くらいから2月くらい。他の国はまた違う時期に収穫される。シーズンによって取り扱う種類は違うけれど、国内外合わせて6種類くらいを扱っているわ。その多くはタイ産の豆ね。現在はタイ国内にある7カ所の農園と一緒に仕事をしていて、彼らはみんな私たちと同じ価値観で、おいしいコーヒーを作っていきたいという気持ちが強い人たち。だから彼らとコミュニケーションが取りやすいし、どんなことでも話し合うことができる。収穫シーズンになると農園で採れた豆をカッピング(試飲)して、その結果を彼らにフォードバックスするの。そうするとその結果次第で農家の人たちが加工方法を変えてみたり、いろいろと考えてくれて、さらにいい豆に仕上げてくれる。結局は農園の人たちとの信頼関係が一番大切なこと。


ⓒSAUCE COFFEE


ⓒSAUCE COFFEE


ⓒSAUCE COFFEE


ⓒSAUCE COFFEE

ひとつストーリーを話すと、私たちが販売しているフイナムダン( Huai Nam Dang )コーヒーという豆があって、それを栽培しているのがピリンさんという女性。両親が農園をやっていたことで彼女もその仕事を始めたの。農園を訪れて初めて彼女のコーヒーを飲んでみたらその美味しさにとても驚いた。彼女はそれまで自分のコーヒーを飲んだことがなくて、彼女にも飲んでもらって、自分が育てたコーヒーの美味しさに気付いてもらったの。でもその時のコーヒーはおいしかったけれど、まだコーヒー豆の品評会に出品するレベルではなかった。それから彼女は毎年どんどんとクオリティを上げていって、昨年おこなわれた品評会で二位に輝いたの。無名だった彼女のコーヒー豆が、みんなが知るハイクオリティの豆になった。今では平均価格の6〜8倍の値段で取引されるようになったの。農園の人たちと一緒にタイコーヒーの品質を上げて多くの人たちに知ってもらえるようになりたいと思うし、私たちのブランドもその一部になれたらいいなって思っている。


ⓒSAUCE COFFEE


ⓒSAUCE COFFEE


ⓒSAUCE COFFEE

ラタ:さらに付け加えると、コーヒー豆を選ぶとき、私たちがどんなストーリーを伝えたいか?ということを常に考えている。加工プロセス、オリジン、プロデューサー。私たちが販売するときには必ずそれらを記載したインフォメーションカードを付けているし、おすすめの抽出方法も加えてある。そのコーヒー豆でお客さんが最高の体験ができるように。今飲もうとしているコーヒーについて理解してもらえたら、さらにコーヒーが楽しくなるから。

ナンパーン:プロダクトのことはピッコロとラタに任せている。彼女たちが作る物を信用しているから。私はそれをどうやってお客さんに伝えるかを考えている。そしてお客さんからのフィードバックを聞くことがとても大切。私たちが作ったコーヒーでお客さんはどんな体験をしたのか? さらにどんなことを求めているのか? それを三人でシェアをして、次につなげることが大切。役割が違うけれどコーヒーに対するパッションはみんな強く持っているから。私がこのキャリアを始めた頃はタイコーヒーを知る人はほとんどいなかった。今では多くの人に知ってもらうことができたし、コーヒー文化についても広めることができたと思う。バリスタ、ロースター、農園の人たちみんなで協力してコーヒーのクオリティは毎年どんどん高くなっている。タイにはお寺やビーチを目的にたくさんの観光客が訪れるけれど、コーヒーを目的に訪れて欲しいって思っている。タイにはたくさんいいカフェがあるし、コーヒーを飲むことが生活スタイルに馴染んできている。カフェホッピングや農園巡りなどタイコーヒーを知る機会を増やせたらいいなって思う。


ⓒSAUCE COFFEE


ⓒSAUCE COFFEE

ーーーこれからやりたいことや、夢ってある?

ピッコロ:今は陶器を作るアーティストと一緒にオリジナルドリッパーを作っているところなの。それにバンコク市内にもポップアップで私たちのコーヒーを飲めるような場所もオープンしたわ。次は本格的な自分たちのカフェをオープンさせようと思っているわ。大きな夢として、コーヒーの循環がもっと良くなったらいいなと思っている。自分たちが作るコーヒーだけではなく、農園で働く人たちからコーヒーを楽しむ人たち、コーヒーに関わる人たち、環境、すべてのクオリティが上がるといいなと思っているわ。

タイでのコーヒーの歴史は他の国に比べてもそれほど長いものではないが、コーヒーに携わる人たちのパッションの強さにはとても驚く。タイ国内で豆が採れることをはじめ、バリスタ、ロースター、農園、コーヒーを愛する人たちみんながタイコーヒーのクオリティをどんどんと上げていること。どこまでも高くなる波、無限大に広がるタイコーヒーの可能性をこれからも見続けていきたい。

「SAUCE COFFEEのポップアップはthe sparrow pizza studio内にて開催中です。近くへ行った際にはぜひ訪れてみてください。

文 / 写真:竹村卓

●スポット情報
SAUCE COFFEE
※店舗なしなので住所無し
Instagram : sauce.coffee

Pop up Cafe at the sparrow pizza studio
Instagram : @sparrowpizzastudio

写真・文:竹村卓
■ カルチャーブック『New New Thailand 僕の好きなタイランド』

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